未来は、いま育てられている — サクセッションプランから始まる組織変革

Client マルハニチロ株式会社様
Overview
マルハニチロ株式会社は、水産・食品事業を中心にグローバルに展開する総合食品企業です。企業パーパスである「For the ocean, for life」のもと、安全・安心で豊かな食を届けることを使命とし、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを進めています。 創業から100年以上にわたり培ってきた海洋資源への知見と、グローバルサプライチェーンを活かしながら、時代の変化に応じた経営改革にも積極的に取り組んでいます。人的資本経営への注目が高まる中、次世代の経営リーダーを育成するサクセッションプランの再構築は、同社にとっても中長期的な成長を支える重要テーマとなっています。人的資本経営推進課の皆様の挑戦とNOLKAの支援内容と共にお話しを伺いました。
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大串 勲 氏
人事部 部長役
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奥野 真人 氏
人事部 人的資本経営推進課 副部長
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小島 典子 氏
人事部 人的資本経営推進課 課長代理
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柏木 祥平 氏
人事部 人的資本経営推進課 課長代理
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森山 貴晶 氏
人事部 課長代理(取材当時)
人的資本経営を担う新たな司令塔
2023年4月、マルハニチロは人事部内に「人的資本経営推進課」を新設しました。企業の持続的成長にとって人財が最も重要な資本であるという認識のもと、人と組織の可能性を最大限に引き出す仕組みづくりを担う専門組織です。
同課は、サクセッションプランの再設計などの企画業務をはじめ、研修体系の再構築、人材の情報基盤づくり(タレントマネジメントシステムの導入)、教育投資の可視化など、人的資本経営を具体化する中核的な機能を担っています。
その役割は、経営層と連携しながら、事業戦略と人材戦略を接続し、「未来の組織をどのようにデザインするか」という観点から、制度・育成・文化を横断的に再構築していく司令塔としての役割を担います。
人材の可能性を信じ、仕組みで支える。人的資本経営推進課の挑戦は、マルハニチロのパーパス「For the ocean, for life」を、人の力によって実現するための土台を築いています。

制度に息を吹き込む、育成の再設計
マルハニチロでは、2018年ごろからサクセッションプランの導入に取り組んできました。しかし当初は、制度そのものが十分に浸透しておらず、運用が各現場に委ねられていたことで、育成プロセスが属人的・場当たり的になりやすいという課題を抱えていました。後継者の抜擢においても、明確な人財要件や基準がないまま、各部署長の主観に頼った判断がなされていたケースも少なくありませんでした。
また、選抜研修制度は存在していたものの、受講後のフォローや育成の継続的なモニタリング体制が整っておらず、せっかくの人財投資が組織の成長に十分に結びつかない状況も見受けられました。
こうした課題を踏まえ、マルハニチロでは制度本来の目的を再確認し、「未来の経営人財を意図的・計画的に育てる」仕組みへと刷新しました。個人の主観に頼らず、職務記述書(JD)や人財要件に基づく選抜体制の整備に着手しました。さらに、選抜研修の再構築と育成対象者へのフォローアップを強化し、制度全体に一貫性と持続性を持たせる取り組みが進められています。
育成の対象者が自らのキャリアに主体的に向き合い、組織としてもその成長を信じて支援する。そうした好循環を生み出すために、マルハニチロのサクセッションプランは今、新たな息吹とともに再設計されています。

見えなかった役割をデザインする
2023年度より、マルハニチロではサクセッションプランの本質的な再構築に向けた取り組みを本格化させました。その出発点となったのが「役割の定義」、すなわち職務記述書(JD)の整備です。まずは課長職の主要なポジションと部長職のJDを作成し、それぞれの職務に必要な知識・経験・スタンスを可視化することで、属人的だった基準を刷新しました。
このアプローチは、特定の人物を選ぶのではなく「どのような役割を、誰が担えるか」を問い直す視点への転換でもありました。役割と職務内容を起点にすることで、育成すべき要件が明確になり、経営人材の選抜・育成の精度と納得感が大きく向上しました。
さらに、これまで点在していた研修や評価制度も、JDと連動する形で再設計が進められています。育成対象者が自らの役割を理解し、その実現に向けて主体的に成長していけるよう、人財開発と制度設計が連動した仕組みづくりが今、推進されようとしています。
役割をデザインすること。それは、組織の未来に必要な力を具体的に描き出し、人の可能性と制度をつなぎ直すことに他なりません。マルハニチロの挑戦は今、言語化と構造化を通じて、育成をより実感あるものへと変えつつあります。

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“変わらぬ価値”と“変えていく勇気” 文化が育む挑戦の芽
マルハニチロでは、長年にわたり「安心・安全」を最優先とする文化が全社に根づいてきました。これは、食品という“命に関わる領域”を扱う企業として当然の責任であり、同社の強みでもあります。一方で、その文化が“失敗を避けるべきもの”という無意識の前提につながり、挑戦への一歩を踏み出しづらい状況も生み出していました。
そうした中で掲げられたのが「挑戦と共創の文化」の再構築です。失敗を許容し、その経験を次の行動に活かすことを推奨する風土の形成は、サクセッションプランの根幹にも通じる考え方です。人を育てるとは、成功の再現だけでなく「挑戦の継続を支えることである」という価値観が、本制度の設計にも反映されていると思います。
組織の文化は、一朝一夕では変わりませんが、挑戦を讃え、失敗を糧とする価値観を制度に組み込み、実行を通じて体現することこそが、未来を担う人材を育てる土壌づくりにつながっていくと信じています。
また、NOLKAの支援は制度設計にとどまらず、他社事例を通じたテーラーメイドした提案をしてくれました。たとえば部長層と経営層のサクセッションプランを同時並行で設計するという複雑な構造の中でも、制度全体の整合性を保ちつつ、現実的な運用に落とし込むための工夫を一緒に検討してくれました。NOLKAは“人と組織のデザインファーム”として、設計図を描くコンサルティングだけでなく、人事としての目線も大切にしてくれました。

“経営チーム”でつくる未来
マルハニチロが目指しているのは「誰か一人がすべてを担う経営」ではなく、多様な視点と役割を持ち寄り、チームとして経営に取り組むスタイルです。個のリーダーシップではなく、組織的な意思決定と学びの連鎖によって、より柔軟で持続可能な経営体制を築こうとしています。
このような経営を支える制度づくりが、サクセッションプランや育成体系の刷新にとどまらず、風土改革や人的資本の見える化など、多角的な取り組みへと広がっています。
この未来像において、経営リーダーは「スーパーマン」のような突出した個ではなく、それぞれの強みを補完し合う“経営チーム”としての存在へと位置づけ直し、「チームの中から誰がリーダーシップを発揮できるか」という、柔軟かつ継続可能な体制を志向しています。
今、私たちは「挑戦」と「共創」の文化を醸成するために現在は4つのプロジェクトを人事部全体で進行中です。
4つのプロジェクト
- エンゲージメント向上: 挑戦を奨励し、失敗を恐れず意見を交わせる風土づくり。社員の納得感と承認を高めることが重要視されています。
- キャリアオーナーシップ促進: 社内副業や公募制の導入を通じ、社員自らがキャリアを描き選択する文化の浸透を目指します。
- 人材育成プログラムの再構築: 画一的な階層別研修から脱却し、自律的な学びと選択制を重視した育成体系への転換を進めています。
- 人的資本の見える化: 教育投資額や育成の成果を可視化し、経営判断の裏付けとなるデータ基盤を構築中です。
マルハニチロの取り組みは、単なる制度の整備にとどまらず、組織文化そのものへのアプローチとして進めています。人を育て、挑戦を支え、持続可能な成長を目指す。未来に向けた変革が、動き出しています。

Profile 企業プロフィール
マルハニチロ株式会社様
マルハニチロ株式会社は、「For the ocean,for life」をパーパスに掲げ、水産物の漁業・養殖から、食品加工、冷凍食品・レトルト食品などの製造・販売まで幅広い事業を展開する総合食品企業です。社会の食を支える使命のもと、安心・安全を軸に、豊かな食卓と持続可能な社会の実現に貢献しています。
創立 | 1943年3月31日 |
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事業内容 | 水産物の漁業・養殖・加工・販売、冷凍・レトルト食品等の製造・販売、食肉・飼料原料の輸入・加工ほか |
売上高 | 10,786億円(2025年3月期グループ連結) |
従業員数 | 1,689人(2025年3月31日時点) |
Client マルハニチロ株式会社様
未来は、いま育てられている — サクセッションプランから始まる組織変革